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last updated 1997/08/11

第88話(全130話)

星の船(3/4)




 マリイアの童話

 ケダック国の戦艦は、ドンロンという名前で呼ばれていました。
 テオの言葉でそれは「夜の恐怖」という意味です。
 そう、この船はみんなからとても恐れられていたんですね。 
 だって、それはあまりにも大きい船だったんです。みなさんの住んでる街ならすっぽりと四
つは収まってしまうくらいです。この船にはじっさいに、みなさんの街と同じような街が乗っ
かっていました。街だけではありません。街を取り囲む森。森の向こうに草原。草原の向こう
に山があり、だから当然、川も流れていて、魚はもちろん、たくさんの動物たちも暮らしてい
ます。
 ここはひとつの世界でした。箱庭のように風景をすべてひとつの篭の中に閉じ込めてしまっ
た感じです。
 どうして上に街を乗せて海を行く船なんか、ケダックの人たちは作ったのかしら。
 じつはケダックの人たちだって、まさかこんな船を作ることになるとは思いもしなかったん
です。彼らはただ大きな船を作ろうとしただけです。
 誰も見たことがないくらいの大きな船を作ろう。
 そうして大きな大きな設計図を書きました。
 たくさんの人がたくさんのアイデアを出しました。そして全部の人の全部のアイデアを取り
入れられるような、そんな船を作ることにしました。
 大きな設計図に書かれた船は何百人も何千人もの人が、何年も何十年も働いて、ようやく完
成しました。
 出来上がった船で、さっそく航海に出てみたら、何と船を走らせるだけで六万人もの人が働
かなくてはならないことがわかりました。何しろ大きな船ですから、どこかに異常はないか調
べるためだけでも大勢の人が必要でした。どんなに大きくたって、波にひっくり返ってしまっ
たらなんにもなりませんね。だから船をきちんと波に乗せておくために百人の人が必要で、ち
ゃんと波に乗っているかどうか調べる人が、また百人必要でした。
 船長さんにご飯を食べさせるためには、コックさんが必要でしたし、出来た料理を運ぶのに
も人が必要でした。
 あまりにも広くて大きな船なので、運んでいる途中でお料理が冷めてしまいます。だから暖
め直すコックさんが途中に必要でした。
 そして暖め直された料理をまた走って走って走って運ぶ人が必要でした。あんまり遠くまで
走るので、途中でお腹がすいてしまいます。
 そこで、運ぶ人のために食事を用意する人が必要でした。それを食べているとまた料理が冷
めてしまうので、また暖め直す人が必要になりました。
 暖まった料理を運ぶ人がまた走り、走り疲れて、次の人にバトンタッチします。その人がま
た走りはじめます。
 船長さんがご飯を食べるためだけでも、こんなにたくさんの人が必要でした。それにご飯と
いうのは船長さんだけじゃなく、乗組員全員が食べるのです。だから乗組員全員のところまで
走って運ぶわけには行きませんから、代わりとしてたくさんの食堂をあちこちに作ることにな
りました。食堂が増え、コックさんが増えると、やっぱりもっとたくさん部屋が必要になり、
家が必要になり、子供たちの遊び場だって必要になりました。
 そうやって、あまりにも大きな船には、あまりにもたくさんの人が必要になりました。
 人が集まれば、街が出来上がります。
 大きな街には、やはりそれを囲む大きな自然が必要になりました。
 人は海の水ばかりみつめていては暮らせないからです。だから山を作り、木々を植え、川を
作り、動物たちを放ちました。
 そうやってひとつの生態系をそっくりそのまま船の上に乗せてしまいました。
 そうしたら、はじめて大きな船は、きちんと動くようになったのです。あちこちと故障ばか
りしていたのに、いまでは故障を直ちに発見して直ちに直してくれる人がこの船の上で生活し
ているのです。どんなトラブルも最小の努力で立ち所に解決するようになりました。

(つづく)




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